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サイバー遊民

日々遊んで暮らしたい。

Nさんの体操着

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こんにちは、Dai5です。

Nさんの体操着の事は今になってもやりきれない後悔しかありません。


偶然に紛れ込んだのか、誰かが悪戯で僕の体操着の中にまぎれこませたのか、はたまた本人が入れたのか。

いえ、第3の選択肢は僕の夢です。いえ、男の夢です。


顔を真っ赤にした彼女が、ただイケナイコトとは理解しながらも、未熟な性知識故に何とは判然としないまま、淡い期待を胸に抱いて体操服を僕に託したとしたら。

そう考えるだけで、トキメキは止まるところを知りません。

 

Nさんの体操着を見つけたのは自宅でした。当時僕は中学二年生でした。

「あんた、これ間違えて持って帰ってきとるよ。あしたちゃんと返しておきんさい」
祖母が渡してきた僕のより一回り小さい体操服は、胸には刺繍でNさんの名前が入っており、たたまれた状態で胸のあたりだけふっくらとしていました。

 

Nさんは、小さく華奢な身体には似合わぬ大きな良質の胸を備えている女の子でした。
体育祭で一生懸命に走るその姿は集まった男達の視線をただ一点に集めて放しません。
そんなNさんの体操着が僕の手の中にありました。

 

「あ、うん。明日返しておくよ」
何事もない。という感じを装いつつ、Nさんの体操着を胸に抱え、僕は足早に自室へと戻りました。

机の上にNさんの体側服を起き、理性と欲求の戦いが始まりました。
およそ無限にも思われる30秒間のめくるめく思考の末、気がつけば僕は吸い込まれるようにして体操着の胸のあたりに顔をうずめていました。

 

静かに涙が流れました。

後悔の涙でした。

その体操着からは僕の家の洗濯物の匂いしかしませんでした。
僕の服やバスタオル、父や祖母からする匂いと同じソレがNさんの体操着からしていたのです。それはもう、Nさんの体操服ではありませんでした。


偶然とはいえ、知らなかったとはいえ、あの良質の胸をやわらかく包み込み、一生懸命な彼女の汗をやさしく吸い取ったあの体操着を、学校中の男子が羨むあの至宝を、僕は、この手に、一度は独占していたのです。

 

その至宝の生々しい香りはきっと僕をこのくだらない現実世界から素晴らしき桃源郷へと導いてくれたに違いありません。
そんな桃源郷へのチケットを、ラッピングするでも額縁に入れて飾るでもなく、僕はむざむざ他の洗濯物同様に荒っぽく洗濯機にぶちこんでしまったのでした。


翌日、Nさんの体操服が消えたという告知が先生からありました。

「ごめん、僕が間違えてもってかえっちゃってたんだ」
「ううん。洗濯までしてくれてありがとう」
帰宅し、僕の家の洗濯物の匂いのする体操着に胸の高鳴りを抑えられない彼女。
「Dai5クンのにおい……。」
急上昇する体温にしっとりと乙女のやわ肌が汗ばむ。ベッドに横たわり、彼女は知らず知らずのうちにスカートのあたりに手を伸ばしていた。

そこまで妄想していた僕の夢見た第3の選択肢は音もなく消え去りました。
「誰か変態に盗まれたんじゃね?」
クラスに一人はいるひょうきん者のH君が言いました。
僕の心臓は今までにしたことのない未知なる鼓動をはじめました。

返せるわけない、返せるわけがない。

僕は頭の中でそう繰り返していました。


結局、僕は自分が持っていることを切り出せず、Nさんの体操服を保持し続けました。

そして、先月実家の片付けをした際、Nさんの体操着が出てきました。
あの日と同じまま、胸のところだけがふんわり膨らんだ体操着はどこか青春の匂いがした気がしました。