体験談

二子玉川でUFOを見た

突然ですが、日曜日にUFOを見ました。

それは先週、共に広島から上京した幼なじみと二子玉川で遊んでいたときでした。

麗らかな気持ちの良い天候にも恵まれ、スタバで買ったフラペチーノを片手にリア充気分で多摩川の土手を歩いていると、家族連れや犬の散歩をしている人々の他に物憂げな顔で多摩川の水面を眺めている若者がちらほらといることに気が付きました。

「嗚呼……」

僕達は嘆きました。

その心に抱いた万感の思いと、互いに顔をそむけた苦渋の表情はきっと同じものだったのでしょう。スタバのフラペチーノがもたらすお手軽リア充気分も束の間のこと、僕達はかつて一向に見通せぬ未来と、いつ合格するのかもわからない悶々とした浪人の日々の出口を睨むように広島の八幡川という緑色の川を見つめていたことを思い出して陰気なノスタルジーに浸りました。

「広島にいた18の頃はさあ……」

自問自答を繰り返した暗黒の青春の日々を語り合いながら歩いているうち、日は傾いて哀愁のオレンジ景色が睦月の空には広がっていました。

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冷たくなってきた風に手が冷えぬよう、ポケットに手を突っ込みながらスタバを目指して戻っていると、土手を少しあがった広場になっているところに人が集まっているのが見えました。
彼等もまた階段に腰かけて夕日をじっと睨んでいたのです。

「嗚呼……」

と僕達はまた嘆きそうになりましたが、どうやら彼等は物憂げに眺めているのではなく、何かをじっと注視していました。
僕達は来た方向を振り向きました。

「あれ、あれじゃない?」

友人が呟きました。

陸橋の向こう側の空には、星のようなものがぼんやりと光ってふわふわと動いているのが見えました。

「あれ、光っていますね! 空の奥に浮かぶあれは! もしかして!」

大げさにハキハキとした口調の男性が見計らっていたかのように現われて近づいてきました。

「すみません! あの光る物体が見えているのは、私だけでなないですよね?」

近づいてきた男性の後ろからカメラを持った人物が回り込むようにして僕たちの前に立ちました。

そうです。テレビ取材だったのです。

「なぜタイミングよくそこに取材班がいるんだ」というしらけ切った脳髄の考えとは逆に、夕焼けの中にある光は踊るようにふわふわと未知なる動きをみせます。
トリックならトリックで良いのですが、およそ僕たちにはそれがどういったカラクリであんなにふわふわとしかもかなりのスピードで動いているのか、説明できるものがありません。

「あれはドローンじゃないの?」

僕たちの隣にいた、犬の散歩おじさんが懐疑的な目を向けます。

「いや、あれはドローンにしては大きすぎませんか? しかもあんなに早く動いていますよね」

リポートをしているその男性の言う通り、ドローンにしては大きいのです。光がふわふわと動いているので、一見ドローンの動きのようにも見えますが、かなり遠くの距離なので、ふわふわのようでもかなりのスピードで動いていることは間違いありません。大きさは光なのでもしかすると膨張して見えていただけかもしれませんが、車以上の大きさはありそうでした。

光は数十秒ふわふわした後、一瞬だけ細い線を描いて、夕焼けの空に消えました。

「うわ、すごい」

「どうせヤラセだろ」という顔のまま、思わず僕達は声を漏らしました。

内面の驚きとは別に僕達の顔は冷めきっていたのです。それは、僕達が懐疑主義者で基本的にオカルトには与しないという立場を貫き続けてきたプライドからでした。

「はっUFO? いるわけないジャンw 目クソが眼球に張り付いてんじゃないの?」と言い続けてきた僕達の御尊顔が全国放送に乗るかもしれないのですから。

(あ、言い忘れてましたが、来てたのは全国放送のテレビです。)

もうなんというか悔しい。

UFOなんて見なきゃよかった。

もうこれからは「UFOなんてみたことない。見たこともないオカルトは信じないよ。テレビのやつなんて全部やらせでしょ」て立場が貫けなくなってしまいました。

明日からどんな顔して外を歩けば良いんだよ!

 二子玉はUFOが現れるスポットらしい

調べてみて驚いたのは、二子玉川はUFOが現れるスポットらしいということでした。

いや、調べたというよりあんな姿をテレビにすっぱ抜かれたわけだから、悔しくて誰か「二子玉でUFO見たwなんかドローン打ち上げてたし完全ヤラセじゃんw」みたいなツイートが上がってるんじゃないかと、ひそかに期待をしてTwitterで検索をかけてみたところ、定期的に「二子玉でUFOを見た!」というツイートがあって驚きました。

何より、ヤラセじゃなくてガチなんだろうなーって思ったのは後から「一応取材をさせていただいたので、ご了承をください」という同意書を持ってきたADらしき女の子の、とにかく待たされたといった感じの疲れきった顔を見たからでした。

あの顔は「あーこの仕事いつ終わるんだよ……」といったいつ終わるかもわからぬ待ちの耐久レースを味わったことのある物にしかわからない顔です。たぶん早い時間からやってきてずっと待ってたんだろうなあ。

僕もかつては待ちの多い仕事をやっていましたから。

というわけで、全国放送の何かの番組にすっぱ抜かれた僕とAlfの御尊顔が放送にのる可能性があります。

見た方は、そっと僕に教えてください。

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